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天然物の全合成とは何か?

【化学科】2012年9月

  化学には天然物の全合成という分野があります。天然物というと人工甘味料とか人工〜という恐ろしい物質と正反対なものを思い浮かべるかもしれません。しかし、ここでいう天然物とは、自然界(天然界)から得られた(分離された)有機化合物(炭素を含む化合物)といった意味あいしかありません。また、全合成とは価格的に安い原料から有機化学の(あるいは化学全般の)知識を総動員して実際に望む化合物を作ることです。歴史的にはM.Berthelotから始まり、近年のR.B.WoodwardやE.J.Coreyらがこの分野を発展させてきました。

 この天然物の全合成の目的は何でしょうか。第1には生命現象の理解のためがあげられます。複雑な生命のしくみには物質が多かれ少なかれ関わっています。種々の情報を伝達するために生体内で代謝されて作り出された物質が大きな役割を有していることが知られています。私たちの注目する物質は2次代謝によって産み出されているため、生体内でかつ微量にしか存在しません。その役割をつきとめるためには、目に見えるぐらいの量を作る必要があるのです。つまりこの生命現象の理解のため作るという目的が第一の目的です。

第二には人類に役に立つ物質を作ることがあげられます。その最たるものはくすりでしょう。天然物の全合成で取り上げられる物質は薬のもととなる物質が大部分を占めます。薬として世に出すためには企業で工場規模で物質を作る必要があります。これが第二の目的です。

 我々の研究室ではこれまでアザ糖と呼ばれる一群の天然物を全合成してきました。アザ糖とは糖骨格の酸素原子を窒素原子に置き換えた疑似糖(糖のようなもの)です(図1)。糖尿病などの疾患に薬として目されている化合物群です。近年はポリエーテルと呼ばれる天然物に着目しています。中でもYessotoxinという化合物は渦鞭毛藻というプランクトン由来の物質なのですが食用として採取される二枚貝に蓄積され、食中毒や下痢などを引き起こす貝毒と呼ばれる物質です(図2)。このYessotoxinを合成するべく遷移金属触媒を用いる合成法を研究しています。これらの天然物の全合成から生命現象の理解やくすりとしての人類に役に立つ物質が得られることを期待しています。


図1

図2

(化学科 横山 初)