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ホタルの発光メカニズムを応用し、ハエの羽化制御機構を解析する

【生物学科】2012年7月

 サーカディアンリズムは時計遺伝子と呼ばれる一群の遺伝子により制御されていると考えられている。時計遺伝子の転写リズムは、脳のみならず様々な末梢組織でも観察されることから、それぞれでリズムを刻む細胞を「中枢時計」と「末梢時計」と呼び分けている。キイロショウジョウバエにおいては、脳側方部ニューロンを欠損した場合、行動リズムが完全に失われることから、これが中枢時計の正体であると考えられている。その一方で、肢、触角、腸管、前胸腺などには末梢時計が存在することが知られている。しかし、中枢時計とこれら末梢時計の振動メカニズムの違いについては、まだ良く分かっていない。

 そこでわれわれのグループは、時計遺伝子periodのプロモーターにホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子を連結させたレポーター(per-luciferase)を発現させたトランスジェニックバエから、図1aのように二次元構造を保った組織培養を作成し、これを超高感度冷却CCDカメラで撮影することにより、細胞1つ1つを明瞭に認識できる解像度で、時計遺伝子の発現リズムを画像化することに成功した(図1b)。

 

図1 前胸腺細胞の培養と生物発光イメージング.(a) 前胸腺細胞は脳(Br)-環状腺(RG)複合体および脳から切り離した単離環状腺において培養された。緑色は時計遺伝子timelessの発現部位を示す。前胸腺細胞には強い時計遺伝子発現が認められる。また、脳には中枢時計ニューロン(△)が含まれている。(b,c) 脳-環状腺複合体(b)および単離環状腺(c)として培養した前胸腺細胞におけるper-luciferaseの発光輝度変化。グラフ下の白色バーは光照射時間を示す。サンプル発光画像をグラフ内に示した。

 

 その結果、単離した前胸腺細胞においても、個々の細胞が自律的なリズムを示すことが明らかになった(図1c)。しかし、脳からの入力を持つ前胸腺細胞では、より振幅の大きなリズムが観察された。特に、12時間の光刺激後には、リズム振幅が3-5倍に増幅していた。また、光刺激によりリズム位相がリセットされることも明らかになった。これらの光入力によるリズム調節は、単離した前胸腺細胞では見られなかったことから、脳神経系を介した情報入力が前胸腺細胞のリズム調節に重要であることが明らかとなった。

 この結果は、一見ごくあたりまえのように思われる。なぜなら、多くの昆虫にとって、光情報は、脳に連結する複眼によって受容されているからだ。しかし、体内時計研究者は、われわれの観察を、ある衝撃をもって受けとめている。なぜなら、これまでの研究により、時計遺伝子の発現リズムは、目で受け取った光情報がなくとも、末梢細胞にも含まれるクリプトクロームという光受容体を使って、直接調節が可能であると考えられてきたからだ。つまり、今回の結果は、その「既成概念」を覆す結果として注目を集めている。実際、われわれもtimelessというもう一つの時計遺伝子のタンパク質発現レベルを、前胸腺細胞について解析してみたが、こちらのリズムは脳が無くとも光同調性を示していた(図2)。つまり、前胸腺細胞においては、periodtimelessという2つの時計遺伝子は、異なる方法でリズム調節されていたのである。

 

図2 もう一つの時計分子(TIMELESS:TIM)は脳が無くても光同調する.(a) 環状腺の免疫蛍光染色像。時計遺伝子timeless発現を緑、TIMタンパク質免疫応答を赤、細胞核を青で発色し重ね合わせている。(b) 単離前胸腺細胞における、明暗サイクル条件下(黒)および逆位相明暗サイクル条件下(赤)でのTIM発現レベルの変化。それぞれ明暗サイクルに同調しているのがわかる。

 

 それでは最終的に、どちらの分子時計の機能が生理活動リズム形成に重要なのであろうか。この疑問に答えるために、われわれは前胸腺細胞のホルモン分泌に必要な細胞内シグナルメッセンジャーであるカルシウムイオンを画像化することにもチャレンジした。このために、蛍光Ca2+センサーであるYellow cameleon遺伝子を発現するトランスジェニックバエを用いて、蛍光イメージングを行った。(図3)。その結果、前胸腺細胞には、分泌細胞に特徴的なCa2+スパイクが観察された。脳からの入力を持つ前胸腺細胞では、このスパイクの頻度が、夜に高く昼に低い昼夜性を示した。さらに、光ファイバーを使って脳をピンポイントで光刺激することで、スパイクの発生頻度が抑制されることも明らかとなった(図3b)。これらの結果は、前胸腺細胞の生理活動リズム出力には、脳からの光情報入力(つまりは神経系に依存的なperiod遺伝子の役割)が重要であることを示唆している。

 

図3.前胸腺細胞の細胞内Ca2+イメージング.(a) 実験セットの模式図。このセットでは、光ファイバーをもちいて脳局所への光刺激を行うと同時に、前胸腺細胞の細胞内Ca2+濃度を蛍光レシオ(F535/F480nm)で測定することができる。(b) 結果の一例。前胸腺細胞には自発的なCa2+スパイクが発生していた。青色光を脳に照射した場合(青線)Ca2+スパイクが抑制された。一方で、赤色光を照射した場合(赤線)には変化は見られない。

 

参考

Morioka E, Matsumoto A & Ikeda M (2012) Neuronal influence on peripheral circadian oscillators in pupal Drosophila prothoracic glands. Nature Communications doi: 10.1038/ncomms1922.(ショウジョウバエのさなぎ前胸腺に内在する末梢サーカディアン振動子に対する神経系の影響)

 

本件問い合わせ先

池田真行 (イケダ マサユキ)

  国立大学法人 富山大学 大学院理工学研究部(理学)准教授

  〒930-8555 富山県富山市五福3190 富山大学理学部生物学科B214号室

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