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地層の変形をコンピュータの中で再現する

【地球科学科】2011年9月

 海岸や山を散歩しているとき、磯や道路脇に露出した地層を目にすることがよくあるかと思います。それらの地層はどのような形(模様)をしているでしょうか。きれいな水平層の場合もあるでしょうし、亀裂に沿って上下方向に地層がずれているもの、あるいは硬いはずの岩石がグニャグニャに曲がってしまっているものも目にしたことがあるかと思います。

 地層の形成や変形は、身近に接する機会も多く、また私たちが安心・安全に日常生活を送っていく上で重要な事柄ですので、地層の変形はどのような時に発生するのか?どれくらいの力が作用するとできるのか?岩石の種類によって変形の仕方が違うのか?などなど、昔からよく調べられています。これらの事柄については、野外調査だけでなく、物理学的な視点に立った理論的な考察や実験による検討も行われてきています。最近は、コンピュータの発達に伴い、コンピュータの中でこのような地層の変形を再現することが可能になってきました。コンピュータシミュレーションですね。コンピュータシミュレーションには、非常にたくさんの流儀(方法)がありますが、今回は、比較的最近になってよく利用されるようになってきた方法(個別要素法)について紹介します。


図1:個別要素法の基本概念図.剛体球と剛体球をばねで接続.ばねは垂直方向とせん断方向にそれぞれ設定されており,外力に対し,いつまでも振動を続けないよう,ダンピングが施されている.またせん断方向には球と球の間に適当な摩擦係数を設定する.
図2:堆積層のモデル.横幅3km,層厚900mの堆積層が,硬い地盤の上に堆積している.堆積層の変形を見やすいよう,100m毎に青,黄と堆積層に着色してある.物性値はどこでも同じ.
図3:地盤が逆断層運動(累積で上下変位300m)をしたときの堆積層の変形.断層は地表に達せず,断層近傍より地表に向かって緩やかになる断層関連褶曲がみられる.
図4:地盤が正断層運動(累積で上下変位300m)をしたときの堆積層の変形.断層延長上の地表面に上下変位が認められる.断層直上は若干くぼ地となっている.

 この方法は、物体は細かい粒子が多数集まって出来ているという考えをそのままシミュレーションの基本モデルとして採用しています。シミュレーションでは、力が作用しても変形しない球(剛体球)の寄せ集めで岩石や砂や泥の層といったものを表現します。球を集めただけでは簡単にばらばらになってしまいますので、球と球を「ばね」でつないでやります(図1)。岩石の硬さは、ばねの強さ(ばね係数)で表現することになります。また、球(剛体球)は変形しませんので、外から与えられた力は、このばねが引き受けることになります。

 私たちが日常で経験するように、ばねに非常に大きな力を与えると、ばねが伸びきって元に戻らなくなったり、切れてしまったりします。塑性変形や破壊とよばれる現象です。このシミュレーションでもそのようにばねが振舞いますので、様々な物体の(目に見える)変形の研究に適しています。

 図34は、地下の岩盤に断層運動が生じたとき、岩盤の上に水平に溜まっている堆積層(砂や泥の層:図2)がどのように変形するのかをシミュレートしたものです。図3は逆断層運動が生じたときの堆積層の変形の様子であり、図4は正断層運動が生じたときの堆積層の変形の様子です。断層の傾斜角は45°と同じですが、岩盤が正断層運動か逆断層運動かによって、堆積層の変形の様子が大分違います。

 研究では、野外で観察される地層の変形を、様々な条件(地層の硬さや厚さ、地層に作用する力の大きさや向き等)を変化させてコンピュータシミュレーションで再現し、観察された現象に最も大きな影響を与えた条件は何かということを探ります。また同時に、ある条件では地層はどのように変形するかということを見積もることができるため、今後起こり得る事柄を予測することも可能になります。

 今回紹介した方法に限らず、一般に、コンピュータシミュレーションは非常に便利で有用ですが、与える条件によって、その結果が大きく異なります。コンピュータで計算したからという安心感(?)で、どのような計算手法や条件によって計算が行われたのかということを考えずに計算結果を眺めるのは危険です。コンピュータシミュレーションを行うときや結果を見るときは、このことを十分に理解しておく必要があります。



(地球科学科 楠本成寿)