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多様な環境に生きる動物の体液調節 ―海辺に棲むカエルと陸上に棲む魚―

【生物学科】2011年8月

 生物が新しい環境へ進出したのは、未開の地を目指したニューフロンティア精神によるものか、逆に生存競争に負けてやむなく過酷な環境を選んだことによるのか。いずれにしても現在の地球上の生物は長い時間をかけて、また偶然による多くの幸運もあって、新しい環境に生息するのに適したように身体の形態と生理機構を進化させることで、多様な環境に適応している。

 現在、脊椎動物の多くが陸上で繁栄しているが、脊椎動物が陸上へ進出して来たのは3億7千万年前の古生代デボン紀に遡る。当時の地球は温暖で、大気中の酸素濃度は20%に達し、陸上には大きなシダ植物が繁茂し、餌となる無脊椎動物も生息していたので、進出の条件は整っていた。海や河川には多くの魚類が生息していたが、その中で胸鰭と腹鰭を四肢に変化させて陸上に進出してきたグループが四肢動物の祖先と考えられている。水生動物が陸へ進出するためには、重力に対抗する骨格、肺呼吸、耐乾燥性、視覚、聴覚、窒素代謝などの各新機能の獲得に加えて、体液の恒常性(浸透圧、pH など)維持にも新しい変化が有ったと考えられる。体液の恒常性に関する機構を調べるためには、化石調査などの古生物学的な知見から得られることは少ないので、現存する多様な動物群の生理機構を調べ比較することによって、当時の動物がどのようにして調節していたのかについて普遍性(一般性)と多様性(特殊性)を明らかにしていく方法が取られる。我々が研究している特別な環境に生息する動物の例を挙げて、体液調節における普遍性と多様性について紹介する。


図1:カニクイガエルの海水適応実験

 一般に両生類は淡水棲で、海水中では数時間以内に脱水によって死亡する。しかし、東南アジアの沿岸にあるマングローブ湿地に生息するカニクイガエル(Fejervarya cancrivora)は、汽水環境に生息する世界で唯一の両生類で、成体もオタマジャクシも海水中で生存できる。成体は、窒素代謝産物のアンモニアから尿素回路により尿素を生成すると共に尿排泄を抑制することで尿素を体内に貯留して脱水から免れている(図1)。成体では、この機構により汽水環境へ順化することを可能にしており、調節には脳下垂体後葉ホルモン(AVT)とRenin-Angiotensin-Aldosterone 系(RAAS)が関わっている可能性がある。一方、海のヒキガエルという学名を持つオオヒキガエル(Bufo marinus)は、乾燥には強いが海水に対する耐性は高くない。乾燥環境では、体内に尿素を貯めることによって水を保持するが、体液よりも高浸透圧の塩水に入れておくと、体液中にNaClと尿素を貯め込むことで浸透圧を高め、環境から水を吸収してゴム毬のように膨らんでしまう。これらのことから、両生類のカエルとヒキガエルは脱水の危険性がある環境では、尿素とNaClを貯めて水を貯留するが、その反応には種差が有る。さらに我々の研究から、乾燥環境ではAVTとRAASが、塩水中ではAVTが機能することが明らかとなった。したがって、哺乳類と同様に、AVTは体液浸透圧調節に、RAASは体液量の調節に働くと言う普遍性が見られる。一方、オタマジャクシの高い耐塩性能力については良く分かっていない。海産魚と同様に鰓のミトコンドリアリッチ細胞からNaClの分泌の可能性が示唆されているが、我々はこれについても調べており、新説を提供できるところまでもう一歩である。


図2:ヨダレカケの生息地とヨダレカケ
図3:ヨダレカケ鰓の電子顕微鏡写真

もう一つの例は、熱帯の磯に生息するスズキ目イソギンポ科のヨダレカケ(Andamia tetradactira)で、岩礁性水陸両生魚と呼ばれている。ヨダレカケは暑い太陽の下で、日中の9割もの時間を岩礁上で苔などを食べて過ごす(図2)。両生魚は空気中では皮膚呼吸と鰓呼吸をするが、鰓は体液調節器官としても重要である。真骨魚類の鰓にはミトコンドリアリッチ細胞(MRC)が存在し、各種イオンの輸送に機能する(図3)。最近の研究により、MRCは細胞膜に存在するイオン輸送体タンパクの種類の違いから数種類のタイプに分類されている。アンモニアや尿素を輸送する輸送体タンパクも存在していることが明らかになってきた(図4)。一般に水生の真骨魚の窒素代謝産物はアンモニアであるが、ヨダレカケでは尿素合成が行われており、通常アンモニアと尿素排泄がほぼ等しい割合で排泄される。陸上では尿素合成が活発化し、鰓からの排泄に加え、腎臓経由の尿素輸送が増加する。これに関して、ホルモン調節などの研究はこれからの課題である。

図4:尿素輸送体(UT)の分子系統樹
魚類(fish)UTと両生類(toad)UTは哺乳類のUT-A2に類似した構造である

 哺乳類は、腎臓の髄質に尿素を貯留して水の再吸収を行うことで、体液調節を行っている。また、海に棲むサメなどの軟骨魚類は、腎臓で尿素を再吸収して体液浸透圧を高く保つことで脱水から免れている。硬骨魚類は淡水中でも海水中でも鰓のMRCによるイオン輸送が体液調節に重要である。また、副腎皮質ホルモンやプロラクチンなどのホルモンによる調節も明らかになっている。今回示したように、水陸両生魚や両生類においても体液が奪われる環境では、肝臓で窒素代謝産物の尿素合成が進み、腎臓・膀胱での尿素再吸収が活性化する。この調節には水・電解質代謝ホルモンが機能している可能性がある。動物は多様な環境への適応において、窒素代謝産物の尿素を利用すると言う普遍性が有る一方で、それぞれの動物群に固有の多様性も存在している。今後も豊かな地球環境を守り続けて行くためには、生物の多様性と普遍性を認識して、野生生物の保全に役立てていくことが重要である。



(生物学科 内山 実)