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藻類の世界への誘い —日本藻類学会第35回大会(富山・2011)の開催に寄せて—

【生物学科】2011年03月

 来る3月26日(土)から28日(月)まで,日本藻類学会の富山大会が共通教育棟で開催されます。またこの期間中,3月26日(土)13:00〜16:00に公開講座「富山県民のための昆布学」(無料)を開講します。

 学会名にある藻類というのはそもそも何でしょうか?「ワカメや昆布,ノリなどで、ワカメ・昆布は褐藻、ノリは紅藻など」と言えば,多くの人は頷きます。高校の教科書にはユーグレナ(ミドリムシ)や珪藻,クロレラやアオミドロ,ミカヅキモ,シャジクモなどの緑藻が載っていますし,富山に縁の深い大伴家持が詠んだ「葦付き海苔(アシツキノリ)」のシアノバクテリア(細菌類)も以前は藍藻と呼ばれ一応,藻類に入っています。でも藻類を一口で言おうとすると少し難しく、「陸上植物のような立ち上がる体制をもたず水中で生活し,単細胞だけでなく巨大な肉眼的藻体をつくり,真核生物のグループとシアノバクテリアのような原核生物を含んでいて,酸素発生型光合成をする生物群」というのが藻類の一般的枠組みです.実体はさまざまな生物群の集合です。いろいろな色の名前がつくのは,グループによって異なる光合成色素をもつからで,光合成色素が知られる前から藻体の色による名前がついていました。色には藍,紅,緑,褐,黄緑,黄金,黄緑,灰などが使われていますが,これではとても足りないので別の特徴によっても命名されています。

 真核生物の葉緑体はシアノバクテリアが真核生物の細胞内に取り込まれて細胞器官となったものだという共生説は,ミトコンドリアの場合とともに今では定説となり高校でも取り上げられているようです。緑藻や紅藻の葉緑体を包む膜を透過型電子顕微鏡でみると内外膜2枚からなり,外膜は宿主の細胞膜に由来し,内膜は共生体の原核生物がもちこんだものが起源と考えられます。ところが,ユーグレナや渦鞭毛藻は膜を3枚,褐藻・珪藻などは4枚ももつことが観察されています。しかも葉緑体の領域には核のような構造も見えることがあります。これは紅藻のような一次共生体の真核生物が別の真核生物に取り込まれて二次的に葉緑体化したものだと解釈されます。真核生物全般の分子系統解析によると,消費者の動物と分解者の菌類はまとまって一つのグループになり,一次共生でできた緑色植物と紅藻類も一つのグループに入ります。しかし二次共生による藻類群は多様な系統に分かれます。たとえば褐藻・珪藻を含むグループ,渦鞭毛藻を含むグループ,ユーグレナを含むグループなどは,動物・菌類グループや一次共生グループと対等なレベルの関係をもちながら,それぞれ別々の系統群だとされています。しかも二次共生をするこれら3グループのなかでは,たとえばこれまで菌類とされてきたジャガイモ疫病菌が褐藻・珪藻に近縁であること,マラリア原虫はもともと渦鞭毛藻のような藻類であったらしいこと,ユーグレナもアフリカ睡眠病の原因鞭毛虫と近縁であったことなどが分かってきました。それぞれの二次共生グループは光合成をしない生物群と類縁関係をもっていたのです。

 シアノバクテリアは原始地球の頃から延々と酸素を放出し続けて,地球環境を造りかえました。石油は古生代〜中生代の温暖な時期に珪藻等が大量繁殖しその後,燃える化石となったもので,現代の繁栄と格差を,また将来の不安をもたらすものとなりました。円石藻は海の匂い,雨滴核の産生にも関わっています。またドーバー海峡の白亜のチョーククリフは過去に大繁殖した円石藻の死骸が厚い層となって隆起したものですが,そのような大繁殖は現在でも発生しています。今,海岸では稚魚のすみかである藻場が消失することや,褐藻虫という渦鞭毛藻がいなくなって珊瑚が死滅することがよく知られています。急激な環境変化が水中にすむ藻類にも影響を及ぼしています。

 海でとれる褐藻や紅藻,緑藻などの大型の海藻は昔から食品としてよく利用されており、養殖されるものもあります。食品のほかたとえば褐藻類では,アルギン酸の工業的利用や抗腫瘍効果のあるフコイダンの薬業的利用などが盛んです。一方,微小な単細胞藻類を大量培養し,細胞内に蓄積される有用物質の利用も多くなってきました。大学構内の水たまりなどに繁殖する緑藻ヘマトコックスからは紅色色素のアスタキサンチンを,また立山土壌から分離された緑藻パリエトクロリスからは必須脂肪酸を取っています。エネルギー問題に深く関わった話題として,バイオディーゼルの生産を目指してボトリオコックスをはじめさまざまな緑藻の大量培養が進められています。

 光合成をする藻類は,地球の環境をつくり,われわれの生活を支えてくれていますが、大部分はふだん気にされることもなく,美しいが目立たない生物です。日本藻類学会の富山大会の開催を機に,藻類の世界に関心をもっていただけたらと思います。


(生物学科 渡邊 信)