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「種(しゅ)とは何か?」を探す旅

【生物学科】2020年7月

  そこに2種の異なる生物(種Aと種B)があるとします。私たちがそれらを1種ではなく2種であると認識したのはなぜでしょうか?形が違うからでしょうか?名前が違うからでしょうか?大きさが違うからでしょうか?色が違うからでしょうか?お父さんとお母さんが違うからでしょうか?生まれた場所が違うからでしょうか?

  生物学において,「種」は,最も基本的な分類階級ですが,「ここが違えば別種である」とか,「これだけ違えば別種である」という明確な定義は存在しません。一般的には,生殖能力のある子をつくることができる繁殖集団を指します。しかし,この定義に当てはまらないために,種をどう認識するべきかがわからない生物が数多く知られています。現在も生物の種をどう認識すべきかについて様々なアプローチにより研究が行われています。私たちに身近な野生植物の染色体研究を例に挙げてご紹介します。

  シコタンタンポポというタンポポ属の1種が,北海道東部の海岸に広く分布しています(写真1)。染色体数を調べてみると,48,56,64,72,80,88本の染色体数を持つ植物が,様々な割合で同所的に混ざり合って生育していることがわかりました。このように,1つの種とされる植物群が,染色体数の異なる複数のグループから構成されていることがあります。こういった植物群は,倍数性複合体polyploid complexと呼ばれます。シコタンタンポポの場合,染色体数の異なるグループは,互いに生殖的に隔離されており,それぞれが独立した繁殖集団であると考えられています。したがって,最初に触れた種の定義に当てはめるとするならば,これらは1種ではなく,複数の異なる種であると考えることができます。しかし,染色体数が異なっていても外部形態で区別することはできません。


写真1.シコタンタンポポ
写真1.シコタンタンポポ


  一方で,同じタンポポ属に,ニホンタンポポと呼ばれる種があります(写真2)。本州の関東から九州の平野部に広く分布しています。染色体数は16本です。このニホンタンポポは従来から地域によって著しい形態的差異が認められており,カントウタンポポ,トウカイタンポポ,カンサイタンポポなどの複数の種に分類されることもありますが,これらはすべて通常の有性生殖を行うと考えられているため,形態的に異なって見えても,すべてが1つの繁殖集団(=種)であると認識することができます。


写真2.ニホンタンポポ
写真2.ニホンタンポポ


  つまり,形態的に異なるかどうかと,生殖的に隔離しているかどうかとは,関係しているとは限らないということが言えます。これらの事実から,私たちは植物の種をどう認識すれば良いのでしょうか?植物の進化の過程には,様々な要因が複雑に絡み合っているため,簡単にこの問いの答えを得ることができませんが,染色体を観察するだけで,植物の種分化と生殖が見えてきます。そこに植物の「種とは何か?」が隠れています。

  私の「種とは何か?」を探す旅は,始まったばかりですが,目的地すらわからないこの長い旅が,今日も私を顕微鏡へと誘うのです。


佐藤杏子(生物学科)