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森林植物 × カルシウム × 無脊椎動物

【生物圏環境科学科】2020年2月

  植物は光合成や落葉といった様々な生理活動などを通して生態系内の栄養塩動態に有意な影響をもたらします。そして、そのような生理活動は種類が異なれば大きく異なり、栄養塩の空間変異をもたらします。例えば日本人にとって最も身近な存在であるスギは、カルシウム(Ca)を始めとする生態系内のミネラル循環を変化させることが我々の研究により分かってきました。具体的には、スギ人工林が優占する集水域は照葉樹林が優占する集水域と比較して、土壌および河川水中のCa濃度が3倍程度高い傾向が見られました (Ohta et al. 2014)。さらに、Caと地球化学的な挙動が似ているストロンチウム同位体比の分析により、スギは基岩から溶出させたCaを土壌や河川に供給することも分かってきました(Ohta et al. 2018)。


  さらに面白いことに、スギが植林されている集水域では、河川や土壌中の無脊椎動物群集の組成が著しく変化することも確認されました(Ohta et al. 2014)。特に、殻にCaを多く含む甲殻類がスギ林で多く確認され、Ca濃度の上昇と関係していると考えられました(図1)。


図1
図1. 森林の植生が集水域のカルシウム動態に与える影響の模式図


  このように、集水域の植生が基岩-土壌-河川を介し集水域のCa動態を変化させ、そこに生息している生物にまで影響を与えうることが分かってきました。

同じスギでも地理変異種や品種が異なれば、Ca動態に与える影響も変化する

  スギには、ヤクスギ、ヨシノスギ、キタヤマスギといったように様々な地理変異や品種が存在します。私達は様々なスギがパッチ状に植えられた北海道大学和歌山研究林の共通圃場を用いて、Ca動態や土壌動物に与える影響を比較する研究を行いました。その結果、同じスギでも異なる地理変異種や品種を比較した場合、それらが進化してきた環境が異なることで、Ca動態に与える影響が異なることが分かりました (Ohta et al. 2019)。例えば、ヤクスギは成長が遅く基岩からCaを吸収する能力が弱いのに対し、ヨシノスギは成長が早く基岩から多くのCaを吸収していることが分かってきました。


  我々の研究グループでは、今後そのような形質の違いが生み出されてきた進化課程の検証や広域スケールでの比較研究などを行っていく予定です。



【引用文献】

  • Ohta T. et al. (2019) Geographical variation in Japanese cedar shapes soil nutrient dynamics and invertebrate community. Plant and Soil. 437: 355-373
  • Ohta T. et al. (2018) The effects of differences in vegetation on calcium dynamics in headwater streams. Ecosystems. 21, 1390-1403.
  • Ohta T. et al. (2014) Calcium concentration in leaf litter affects the abundance and survival of crustaceans in streams draining warm-temperate forests. Freshwater Biology, 59, 748-760.


図2
図2.調査地のドローン写真: スギの植林が行われ、植生が大きく変化している


(生物圏環境科学科 太田 民久)