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熱帯の雨が北陸に雪を降らせる?(後編)

【地球科学科】2019年8月

  前回の記事では、北陸の12月の月積算降水量は1980年の中頃から顕著に増加しており、約30年間で1.5倍以上の増加となっていることを、ご紹介しました。またそこでは、北西の大陸からの季節風が近年の12月に強くなっていることが、降水の増加傾向の原因として考えられることを説明しました。今回はその続きとして、北西からの季節風が強くなっている原因について、考えてみたいと思います。


 季節風が強くなるためには、大陸と日本の間により大きな気圧の差が必要です。そのため最初に、気圧の長期変化を調べてみました(図1)。すると季節風の強化傾向に対応するように、日本付近で気圧が低くなる傾向(低圧傾向)にあることが分かりました(図1の紫丸枠)。またその低圧傾向は南西に続いており、インド洋からインド亜大陸にまで拡がっていました(図1の赤四角枠)。即ち近年の12月には、日本付近が低圧になると同時に、インド洋でも低圧となる傾向があったのです。


図1:地表面付近の気圧の長期変化
図1:地表面付近の気圧の長期変化。
寒色系は低圧傾向を、暖色系は高圧傾向を示している。


図1におけるインド洋の低圧傾向は、低緯度域において降水が非常に強い場合に見られる大気の特徴に、よく似ています。このことから次に、12月の降水の長期変化について全球を対象にして、(あらためて)調べてみました(図2)。すると、日本の降水だけでなく(図2の紫丸枠)、熱帯のインド洋を中心とした地域においても、降水が増加する傾向にあることが分かりました(図2の赤四角枠)。


図2:12月の平均降水強度の長期変化
図2:12月の平均降水強度の長期変化。
緑色系は増加傾向を、茶色系は減少傾向を示している。


 では、このインド洋付近の降水量の増加と日本付近の気圧変化は、どのように結び付いているのでしょうか?降水は水蒸気が水に変わったもので、水蒸気から水への相変化の時に大気中に熱を残します。最近の降水の増加に伴って大気に与えられたより多くの熱により、インド洋付近では大気が普段よりも上下に伸びることになります。その結果として、対流圏上層では高気圧的な循環ができます(図3の赤枠)。そうした変動のエネルギーは、熱帯にとどまらず中緯度まで伝わり、偏西風を蛇行させることがあります。図3の紫枠の低圧的な循環は、その偏西風の蛇行によって気圧の谷が日本の西方上空で形成されたことに対応しています。そして上層に気圧の谷ができると、一般的にその東側の下層では低気圧が発達しやすくなります(これは、気圧の谷の軸が上方に向かって西に傾くと温帯低気圧が発達しやすいことに似ています)。即ち、図3で示した上層の偏西風の蛇行は、下層の日本付近で気圧が低くなる傾向(図1の紫枠)へと繋がっていると考えられるのです。


図3
図3:対流圏上層での等圧面(300hPa)高度の長期変化。
寒色系は低圧傾向を、暖色系は高圧傾向を示している。


 図4では、前回と今回の記事で紹介した、インド洋の降水と中緯度の偏西風の蛇行と日本付近の降水の一連の関係が、模式的に表されています。このような、ある場所の天気・天候と、遠く離れた場所の天気・天候の結びつきを、「テレコネクション」とよびます。平成30年7月の西日本の豪雨やそれに引き続く異常な高温も、こうしたテレコネクションが重要な役割を果たしていることが分かっています。


最後に、今回見てきた12月のインド洋の降水の増加は、何によって引き起こされているのでしょうか?これについては、今のところ答えを持っていません。(今回よりも)もっと西方の中緯度からの影響も考えられますし、熱帯の海面温度の影響も考えられます。このあたりは、また研究が進んだらご報告できたらと思っています。お楽しみに(?)

 

図4
図4: 12月のインド洋の降水と北陸の降水の増加傾向の結びつき関する模式図。
色塗りで降水量の変化(青色が増加傾向)、コンターで対流圏上層の気圧変化を表している。
またそれに伴う偏西風の蛇行の様子が、模式的に描かれている。


(地球科学科 安永 数明)