Press release Mar. 22nd 2007

オリオン大星雲で、ねじれながらくるくると回転している 特殊な有機分子(ギ酸メチル)が見つかった!!


オリオンの未同定線解明!
〜 有機分子のねじれ振動 〜


2007年3月1日発行 Astrophysical Journal Letters, 657巻 L17-L19頁に掲載
2007年3月22日 国立天文台ウェブリリース
2007年3月29日 日本天文学会の春季年会において発表

発表者(所属)
小林かおり(富山大学)、小形和己(富山大学)、常川省三(富山大学)
高野秀路(国立天文台 野辺山宇宙電波観測所 / 総合研究大学院大学)

研究の概要

オリオン大星雲からは、正体不明の電波が多く観測されており、野辺山にある45 m電波望遠鏡などでも観測が行われています。今回、富山大学と国立天文台のチームは、このような正体不明の電波の内の一部を、特殊な状態にあるギ酸メチル分子(化学式:HCOOCH3)が出していることをつきとめました。
宇宙にはガスの多い場所があり、そのひとつであるオリオン大星雲には多くの分子が存在します。分子の出す電波は電波望遠鏡で観測されています。オリオンなどから発せられる電波の中には正体不明なものも多く、その起源を明らかにしようと研究が進められています。最近、富山大学のチームは実験室でギ酸メチルという分子の電波の測定を行いました。国立天文台の研究者と協力し、これらのデータと観測結果を詳細に比較すると、オリオン大星雲から出ている正体不明の電波の内の約20本は、ギ酸メチル分子が大きくねじれながら(下記の「ギ酸メチルと実験室での電波の測定」の項参照) 、さらに分子全体が回転するときに出す電波であることがわかりました。これらの電波は星が生まれるガスの温度や、そこでの化学反応を調べるのに役立ちます。起源のわからない電波はまだ多数ありますが、多くの電波がこのように大きくねじれながら回転する分子で説明できる可能性があります。
図1 オリオン大星雲とギ酸メチル
オリオン大星雲だけの画像はこちら

オリオン大星雲

オリオン大星雲は、冬の夜空に輝くオリオン座にあるガスが多い星雲です(図1参照)。この星雲の中では、今でも星がたくさん生まれており、ガスから星が形成される過程を探る目的で、この領域に対する赤外線や電波の観測が活発に行われています。また、このガスの中には、大型の有機分子を含む多くの種類の分子が生成されていることも知られており、これらの分子が出す様々な周波数の電波についても同様の目的で観測が行われています。しかし、どのような(状態の)分子が発しているのか不明な電波も多数存在しています。

ギ酸メチルと実験室での電波の測定

ギ酸メチルは図2のような形をした分子です。最近の研究でこの分子は星が生まれる初期段階に存在すると考えられています。オリオン大星雲には多量に存在することが知られていました。
これまでは、このような大きなねじれがない状態のギ酸メチルが見つかっていました。今回報告しているギ酸メチルは図のように大きくねじれる動きをするという特殊な状態にあるものです。ねじれる動きをする分だけ高いエネルギーを持っているので、観測された領域が暖かいことを示しています。
図2 ねじれて動くギ酸メチル
(グレー:炭素、赤:酸素、水色:水素)
実際に天体にこのような状態の分子が存在することを明らかにするのためには、地球上の実験室で分子がどのような電波を吸収するかあらかじめ測定しておくこと(マイクロ波分光)が不可欠です。最近では量子力学計算の発達により、吸収する電波の予測なども行われています。しかし、実験室や電波望遠鏡で観測される電波は、周波数の精度が非常に高いので、まだ量子力学計算による予測では十分ではありません。富山大学においてギ酸メチルのマイクロ波分光法によって、ギ酸メチルが吸収する電波を調べました。図3に測定データの一例を示します。ギ酸メチルが色々な電波を吸収することがはっきりとわかると思います。今回実験室で、大きくねじれながら回転するという特殊な状態のギ酸メチルに特有の電波を明らかにしました。
図3 実験室で測ったギ酸メチルの
電波の吸収の例


野辺山45 m電波望遠鏡による観測とデータの解析

実験室での電波のデータが得られたので、これまでに天体で観測された電波で正体のわからないものと比較しました。1988年の野辺山45 m電波望遠鏡を用いたオリオン大星雲の観測データの中の7本が、このような状態のギ酸メチルが出す電波であることが明らかになりました。約20年かかって、その正体が解明されたことになります。野辺山の観測データは非常に質が高く、このような特殊な状態にあるギ酸メチルとしては世界で初めての観測であることを示しました。さらに野辺山45 m電波望遠鏡以外の観測も調べることにより、約20本の電波がこの分子で説明できることがわかりました。
更に詳しく野辺山の観測データを解析したところ、オリオンでのこのようなギ酸メチル分子の温度が約-230度であることがわかりました。 一方、星が形成されていない暗黒星雲での温度は、一般に約-263 度の極低温であることが知られています。今回求められた温度は、近くで形成されている星がガスを暖めていることを反映し、少し高いことがわかります。

今後の観測に期待されること

上記の特殊な状態のギ酸メチルは、周波数が異なる多数の電波を出しています。今後、まだまだ残っている正体不明の電波が、この分子を調べることでさらに解明されることが期待されます。
富山大学では実験室で上記のような特殊な状態にある有機分子が出す電波の研究を行っています。このような電波はこれまでに天体で観測されたデータの中では弱いものが多いです。しかし、現在チリの高地に国際協力で建設中の新しい電波望遠鏡(アルマ, ALMA)は感度が高く、弱い電波を多数検出すると考えられます。富山大学での測定データを使って、このような特殊な状態にある有機分子の観測が多数なされると期待されます。その観測結果は星が生まれるガスの状態(温度、存在量など)や、そこでの化学反応の研究に役立っていくことでしょう。

リンク

  • 富山大学理学部物理学科常川省三研究室
  • 国立天文台 [トップページ野辺山宇宙電波観測所 45m電波望遠鏡]

      お問い合わせ先

      内容についてのご質問など、ご遠慮なくお問い合わせ下さい。また、図の修正のご依頼などもお寄せください。

      小林かおり (富山大学 理学部 物理学科 助手) 電話 076−445−6595
      高野秀路 (国立天文台 野辺山宇宙電波観測所 主任研究員/総合研究大学院大学 助手) 電話 0267−98−4377


      最終更新日 2007年3月22日