地球圏物理学講座


教授 対馬 勝年   Email: tusima @ sci.u-toyama.ac.jp

専門分野

雪氷物理学,雪氷工学,雲物理学

メッセージ

未来のエネルギー源として積雪寒冷,長波放射エネルギーの利用開発,雪氷の理工学の応用による新産業(ベンチャービジネス)興しを目指しています。当研究室に集い,雪国からの「知」の革命を巻き起こしましょう。

最近の研究から


■氷筍と高速スケートリンク

 洞窟の出入口などに床から真上に突き出るように育つ氷,つまり「氷筍」の中に巨大単結晶が見出されました。この天然氷筍がヒントになって,大量(4800本)の単結晶氷筍の育成施設が建設され,その氷筍を利用して高速スケートリンクが実現しました。
高速リンク構想は次の3つの組み合わせから生まれました。
@氷の結晶面のうち,基底面(0001)の摩擦が最小である。
A天然の氷筍から巨大単結晶が見出された。人工的に単結晶氷筍が作成できた。
Bスケートリンク”エムウェーブ”の氷は床から表面まで柱状の結晶粒であった。滑走による傷や壊れた氷はザンボニーによる製氷で,基盤の氷結晶に再生されている。
Photo 1  リンクに氷単結晶の(0001)面を張り,その上に散水を繰り返して厚い氷にされました。このリンクは12月のワールドカップ短距離大会に使用され清水選手が2月のオリンピックで出したゴールドメダルの記録を塗り替えるというリンクレコードを記録し,平成10年度の国体では33種目中26種目に大会新記録が樹立されるという素晴らしい成果を得ました。
 氷筍リンクによる直線部での高速化は,逆に,コーナーでの遠心力を多きくすることとなり,新たな問題を提起しました。目下研究中の次世代高速リンクではコーナー部にスケートの刃によって小さな土手(バンクという)が形成され,より大きな遠心力に対しても選手の挑戦を可能とする氷が探求されています。
 スケートの摩擦係数は従来氷の摩擦で知られていた値より一桁小さい0.004程度であったこと,結晶面を(0001)に統一することによって摩擦を小さく出来たことから,摩擦機構として「凝着説」の正しさが検証されました。
 余談になりますが,スケートの滑りは「解け水による潤滑」で説明されるのが普通です。その際,解け水は摩擦熱によって形成されると解釈されていました。本研究において,従来の値より一桁小さな摩擦係数が得られたことは,摩擦融解の可能性が否定され,凝着説の妥当性が立証されることになったと言えます。
 解け水が関与しないから,氷の結晶面を変えることで,スケートの摩擦係数をさらに小さくできたと解釈されるわけです。


fig. 1
落差50mほどの立て杭に上昇管と復流管の2本のパイプがある。上部の貯雪庫の雪を冷熱源に上昇管を昇ってきた蒸気と液滴をダムに液化させる。復流管には水車タービンがつけられ、発電する。液体の一部はノズルから細かい霧となって噴射され、上昇流に乗せられる。
■雪発電(熱サイホン発電)

新型発電の開発研究を行っています。日本には年間200〜900億dの雪が降り,豪雪地では道路除雪などの雪処理に莫大な経費を費やしています。雪は居座り災害といわれ,雪国のハンデイも消えそうにありません。
 近年,逆転の発想を導入して,雪のよい面を引き出し,豊かな社会建設に結びつけていこうという考え,「利雪」が生まれました。農産物貯蔵,建物冷房などを通して今日では「雪は資源エネルギー」であることが認識されるようになりました。「利雪」は雪国の精神革命と言えます。「熱サイホン発電」(別名「雪発電」)は発電という付加価値の高さから評価して,雪氷寒冷の資源エネルギー利用分野の一つの頂点を目指していると言えます。
 一冬に降る雪を解かすには国内で発電される全電力の数年分を要すると見積もられます。日本はまた火山列島であり地下には豊富な地熱資源が眠っています。これら二つの資源を結びつけることで熱サイホン発電が構想されます。
 ヒートパイプが驚異的な熱伝達方法として登場して以来,オーディオ機器の放熱,道路融雪,トンネル内のツララ防止,アラスカ石油パイプラインの橋脚,手術,宇宙機器などに広く応用されてきました。ヒートパイプ内の媒体の運動特性に注目することから熱サイホン発電が構想されました。例えば,アラスカパイプラインに用いられた太い熱サイホンパイプ(橋脚)の内部では冬季,下端から揮発性媒体が蒸発し,上端の放熱板に熱を奪われて液化し,管壁を滝のように流れ下っています。液体流で水車タービンを回せば発電できるであろうと考えられたわけです。
 熱サイホン発電ではより効率的に液流を作り出す手法として,沸騰させた蒸気流に復流液を霧状に噴霧する試みが行われています。これにより,低落差発電の道が開け,従来の10倍もの流れを実現できると期待されています。雪を解かして水力発電を行う場合に比べると,雪で冷やす熱サイホン発電は40倍もの大きな発電を可能にすると見積もられます。

■その他

物性面では酸性雪・奇形雪結晶の研究,負圧に注目した復氷現象の解明,氷・スキーワックスの摩擦,過冷却水・氷点コントロール技術の応用,サーモグラフイーの応用などに取り組んでいます。
利雪の高度化,ベンチャービジネスの発信に関するような家庭用冷凍庫で透明氷を作る技術,除雪によるツルツル路面発生を防止する技術,降雪中の運転で自動車のワイパーが浮き上がるのを防止する技術,ミネラル氷・ビタミン含有氷製氷技術,新型吸着剤製法,降雪中の着陸,運転支援を目指す電波鏡構想など利雪の高度化にも力を入れています。